東京新聞 「こちら特報部」に報道されました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

復員兵「PTSDか」遺族ら交流   東京新聞 20191216日朝刊

 

代表・黒井さんベトナム帰還兵に父重ね            こちら特報部

 

 

 

アジア・太平洋戦争で心に傷を負ったまま亡くなった元兵士の遺族が交流を始めた。父親は心的外傷後ストレス障害(PTSD)だったのではないかと思うに至った男性が昨年1月、「PTSDの復員日本兵と暮らした家族が語り合う会」を立ち上げ、8日に5回目の交流会を都内で開いた。遺族たちはなぜ、家族の過去を打ち明けるのか。(稲垣太郎)

 

 同じ境遇の人に「広く知らせたい」

 

「PTSDの日本兵がいたということ自体、ほとんど知られていない」。78年前に太平洋戦争が勃発した今月8日、武蔵村山市中藤地区会館の一室で開かれた交流会。

 

あいさつに立った代表の黒井秋夫さん(71才)は、31年前に亡くなった父親を思った。中国から復員した元兵士、建設現場で働いては休み、無口だった。

 

黒井さんは2016年、世界各地を大型船で巡る「ピースボート」に乗り、ベトナム戦争から帰国した米兵がPTSDに苦しみ、社会復帰できない様子を伝える映画やビデオを見た。「日本兵にも精神で侵された人がいてもおかしくない」と連想した黒井さんは「雷に打たれたようなショックを受けた」。ベトナム帰還兵と生前の父親の姿が重なった。

 

「ちゃんとした仕事もせず、話しもしない暗い人間だった。『こんなふがいない父親にはなりたくない』と思っていた父親は、戦争で精神を病んだ後の人間だったのではないかと考えるようになった」

 

同じ境遇の遺族の中には、父親が酒を飲んでは母親に暴力をふるうのを見て育ち、心に傷を負った人もいる事を知り、「広く知らせたい」とホームページを立ち上げる形で会を結成した。

 

8日の交流会では、NHKが18年に放送したドキュメンタリー「隠された日本兵のトラウマ 陸軍病院8002人の“病床日誌”」を上映し、「『戦場体験』を受け継ぐということ」の著者で神田外語大非常勤講師(歴史学)の遠藤美幸さんが講演した。

 

遠藤さんは講演で「戦場体験者がいなくなり、戦場体験の世代間の伝承や継承がうまくなされず、戦場の現実を想像できないことが、今の日本の右傾化や軍事化の拡大を生む一因になり得る」と指摘した。そして遠藤さんは「日本兵のPTSDの実像を家族の語りから掘り起こす試みは、戦場体験者が消えゆく今、戦場の凄惨さを伝え残す有効な方法だ」と会の取り組みを評価した。

 

交流会のメインエベントは出席者がグループに分かれ、復員後の父親らと暮らした記憶を話す「おしゃべりカフェ」。つらい話をリラックスして打ち明けられるようにと名付けられた。

 

この日が2回目の参加だった埼玉県川越市の自営業吉沢智子さん(64)は「精神的に不安定だった父の言葉の暴力がすごかった」と明かした。

 

吉沢さんは取材に「父から戦争の話を聞けなかった。他の家族の人の話を聞くこの会が、父のことを理解するよすがになった」と参加し続ける訳を話した。

 

黒井さんは「PTSDの元兵士と暮らした妻や子どもは精神的、経済的に負の影響を受け続けその連鎖が孫世代まで続いている。現在進行形の重大な社会問題だ」と語った。

 

負の連鎖孫世代まで「現在進行形」